鏡の前で数十分かけて髪の毛をセットしたにもかかわらず特に何も言われない時もあれば、寝起きのボサボサの頭のまま出かけた時に限って、「なんかいいね、その髪型」とか言われたりする。
見聞きするいろんな事柄を自分に対して言われているかのように捉えて、それまでの自分の言動を恥じ入り自己嫌悪に陥る人もいれば、周りの言うことを歯牙にも掛けず、好きなことを好き勝手にしゃべり、好き放題する人もいる。
満員電車の中にいる人達の中にも、過激派に所属して機関紙の発行に勤しんでいる人もいれば、家族を亡くしたばかりの人もいるだろうし、創作料理の新しいメニューを常に考えているシェフもいれば、日常に飽き飽きして不満を抱えながらその不満のはけ口を探している人もいるかもしれない。
家路に黒猫を見かけても、不吉な印だと顔を顰めて素通りする人もいるし、大喜びでその猫をあやす人もいるだろうし、冗談半分で大きな音を立てて猫を驚かせる人もいる。
属性としての心情と、その人個人としての心情は決して同一のものではないはずである。しかし、属性でまとめて考えていかないと、話を先に進めることができない場合が多くある。
この話の結論はまだどこにもないけれど、通奏低音のようにこのところ考え続けている。
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眠れない夜が続いている。暑い。蒸し暑い。夜になると思考が活発になる。大抵、碌なことは考えていないけれど。
自分で自分の周りに高い塀を拵えておきながら、身動きが取れないと思い込んでいる。あるいは、頭では塀の外に出たいと思っておると考えているのだけれど、実際には思っている以上に塀の中の居心地がいいだけなのかもしれない。
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ある高校生と話す機会があった。大学でもサッカーを続けたいという彼は、こう尋ねた。
「大学に入るまでに何をやっておけばいいですか?」
もちろん、大学サッカーを選手として経験したわけではないので、わからないと答えておいた。その分、審判として学生リーグに携わった数少ない経験から感じたことを話した。そして最後に、まとめるようにこう付け加えた。
「まぁ、ラクしようとせんことやな」
こう言い終わった時、いろいろな記憶や観念が頭の中を流れていった。まるで、自分が自分自身に語りかけていて、その言葉を受け取ったように。
思い出したことの一つは、高校3年の担任の先生のこと。先生は、僕が滑り止めの受験で11月頃に合格した際、入学金の納付を止めるよう僕にアドヴァイスした。「お前はすぐ楽な方に流されるからな。入学金を納めたら、行きたい大学の試験日(翌年の2月終わり頃)まで保たんやろ」というようなことを言われたように記憶している。
おかげで、志望校の試験日まで保険がなく、落ちたら浪人という状況だったので、それなりに準備もして無事に合格することができた。そして、その大学で審判を始め、多くの言語を学び、いろんなバックグラウンドの人達と語り合い、恋愛をし、アルバイトをし、ゼミで怒られながら卒論を書き、その延長線上に今の自分がある。
もちろん、それではこの先もこの延長線上にあるかどうか、それはまた別の問題ではある。しかし、とは言ってもそれまでの来し方を振り返って物事を決める時には、少なからず影響を与えられるのだろう。
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カラスが鳴くから
帰りましょう。
そのカラスは、
夜明け前から
啼いている。
身体は寝たがっているのに、
頭が冴え渡る。
と、書いたそばから
睡魔がやってくる。
いったい、何を書いているのやら。